『海鳥を学ぼう』教育プログラム 導入事例

おなかがすいた!

■目 標
(1)海洋環境を汚染しているプラスチックごみやテグスなどが、海鳥に与えている影響を学習します。
(2)問題を解決するために、自分たちに何ができるかを考えます。

■方 法
 ウミネコを演じ、エサを捕まえたり、ヒナにエサを与える模擬体験をします。

対象年齢:小学校3年生〜高校3年生
対象人数:10〜30名
活動時間:40〜45分
活動場所:校庭や体育館など広いスペース

■背 景
 海岸を歩くと、多くのプラスチック製のゴミが目につきます。また、フェリーなどに乗船すると、海に浮いているプラスチックゴミを目にします。

 これらプラスチック製のゴミは、海で生活する生き物に、深刻な影響をおよぼします。クラゲ類をおもに食べているウミガメの仲間は、プラスチック製の袋をクラゲと間違えて、食べてしまいます。洋上を飛びながら水面に上がってくる魚の群を追う、アホウドリなどの海鳥類は、海面に浮いているある種のプラスチック製のゴミを魚と間違えます。さらには、親鳥がヒナにプラスチックを与えてしまうことも報告されています。体内へ入ったプラスチックは消化されることなく蓄積して、餓死や中毒を起こしてしまいます。

 また、漁船や釣り人が失う釣り針やプラスチック製の漁具は、魚や海洋ほ乳類、海鳥たちの体にからまります。いったんテグスがからまると、多くの場合自分でとることができずに、やがて弱って死んでいきます。

 プラスチックのゴミはどこからやってくるのでしょうか。ライターやシャンプーのボトル、ペットボトルなど日常生活で使用していたものが多くあります。中には日本ではなく外国から流れてきたと思われるゴミもあります。たとえば北海道の日本海側では、ロシア、韓国、中国などのゴミが多く見つかります。

 海には海流があり、ゴミはその海流に乗って世界中に広がっていきます。日本で出されたプラスチックゴミが、太平洋に浮かぶ島々に大量に流れ着いていて、周辺で生活する人や生物に深刻な影響を与え、問題となっています。

 今、私たちに求められているのは、地球に暮らす一人一人が、プラスチックゴミが環境にもたらす影響を認識し、なにができるかを考えることです。

■教 材(生徒30人の場合)
□紙皿(一人2枚ずつと餌場用10枚程度)
□ビニル袋(一人1枚)
□ポップコーン(400g程度)
□砕いた発砲スチロール片(ポップコーンより少なめか等量)
□大きめのクリップまたは針金
□はし(一人1膳)

■進め方
【1】校庭や体育館など広い場所で行います。長さが20メートルくらいとれる場所を選んでください。広場の一方を繁殖地、反対側を餌場の海とします。

【2】餌場の海に紙皿をならべ、その上にポップコーンと発泡スチロール片を混ぜて、入れておきます。いくつかの紙皿の上にクリップを入れてください。

【3】ポップコーンは餌の魚を、発泡スチロール片はプラスチックゴミ、クリップは釣り針やテグスなどの漁具を表します。
※それぞれが何を表すのかは生徒たちにはここでは教えません。

【4】繁殖地に生徒たちを集め、3人ずつのグループに分かれます。低学年から高学年までいる場合は、バランスよく混ざるようにグループを作るとよいでしょう。ウミネコの親子になることを伝え、3人のうち1人はヒナを、もう2人は親鳥であることを伝えます。

【5】生徒たちにビニール袋を1個ずつと、紙皿を2枚、お箸を1膳ずつ渡します。ビニール袋は胃袋を、紙皿は胃袋の中身を見るのに使い、お箸は鳥のくちばしであることを伝えます。

【6】制限時間内に餌を取りに行くように指示してください。広場の端にある紙皿の上に餌があります。いろいろな種類の餌がありますが、どれを食べてもかまわないことを伝えてください。

【7】1回目は親鳥役の生徒が餌を取りに行き、ヒナに餌を与えます。はじめの合図で親鳥の1人が餌を取りに行きます。餌場についたら、くちばしを表す割り箸で、一粒ずつつまんで、ビニール袋の中に入れていきます。10粒ビニール袋に入れたら巣に戻り、もう1人の親鳥と交代します。もう1人の親鳥が餌場にいっている間に、戻ってきた親鳥は、ビニール袋の餌を半分ヒナに与えます。これを1,2分間、繰り返します。合図があったら巣に戻ります。

【8】ビニール袋の中身を、ポップコーンと発泡スチロール片に分けて、2枚の皿の上にあけるよう指示してください。このとき、クリップをとってしまった人がいたら、釣り針やテグスであったことを伝え、テグスに絡まった鳥を表すために、その生徒の手を軽くひもで縛ります。

【9】2回目のゲームをします。今度はヒナも成長したので、全員で餌を取りに行きます。1回目でテグスに絡まってしまった生徒は、手を縛られたままで、足の下には段ボール紙などを引いて、その紙から足を離さないように引きずって餌を取りに行きます。今度のゲームでは10粒とった後に巣に戻らないので、10粒取るごとに、海の(広場の)真ん中でちょっと踊って喜んでください。

【10】合図があったら集まります。テグスに絡まった生徒とそうでない生徒で取れた餌の量を比べてみましょう。
 近くの浜などで、テグスに絡まった鳥を見たことがあるか、話し合ってみましょう。そういった鳥たちを少なくするためにはなにができるのか話し合いましょう。

【11】2回目に取った餌も、ポップコーンと発泡スチロール片に分けてみます。1回目と2回目の発泡スチロール片だけを、ビニール袋に戻します。

【12】ポップコーンと発泡スチロール片が、それぞれ何を表していたのか説明します。ポップコーン(魚)は消化されて胃袋(ビニール袋)からなくなりますが、発泡スチロール片(プラスチックゴミ)は消化されずに胃袋に残ります。
 ビニール袋の中身をみんなで見てみましょう。発泡スチロール片でいっぱいになってしまった胃袋には、魚を食べる余裕がありません。いずれ餓死してしまうことを伝えます。

【13】ゴミに苦しめられている海の生き物をあげてみましょう。海鳥、魚、ウミガメ、アザラシ、イルカ、クジラ・・・
 こうした生き物たちの被害を減らすためには何ができるか考えてみましょう。

■発展編
【1】実際に海岸に落ちているゴミを調べてみましょう
 自然界に元々あったゴミとそうでない人工のゴミ、やがて腐って自然に帰るものと、分解されずにいつまでも残るもの、さらにはもっと細かく分類して表を作ってみましょう。たばこのフィルターや漁具、ペットボトルなどがどのくらい落ちているのか、範囲を決めて数えてみましょう。ゴミの多い場所を地図にしてみるのもよいでしょう。

【2】外国からやってきたゴミから海流の勉強をしてみましょう
 どこの国のゴミが多いのか調べてみましょう。また、日本のゴミが他の国の海岸を汚してないか調べてみましょう。インターネットで紹介しているサイトもあります。ミッドウェイ環礁に暮らすコアホウドリは海に浮かぶ日本から流れてきたライターなどのプラスチックゴミを食べたり、ヒナに与えてしまいます。

【3】地域で暮らしている人の話を聞いてみましょう
 いつ頃から海岸にゴミが増えたのか、昔から暮らしている人に聞き取り調査をしてみましょう。プラスチックゴミは昔から多かったのでしょうか。

【4】ゴミを減らすためにできることを考えて、実践してみましょう
 みんなに呼びかけてゴミ拾いをしたり、ポスターなどで、ポイ捨てしないように訴えたりすることもできるでしょう。生分解性のプラスチックというものがあります。どんなものか調べてみるのもいいでしょう。

【5】自分たちの生活について考えてみましょう
 プラスチック製品を使わないライフスタイルについて調べ、考えてみましょう。自分たちの生活にあてはめ、友達同士や家族で話し合ってみましょう。